政府系ファンドめぐり 米国が投資指針で相互協定

 
Q.政府系ファンドの投資指針で結んだ投資協定とは?

財務省20日、政府系ファンドの投資指針について、シンガポールアブダビの政府と相互協定を結んだと発表した。ファンドが米国に投資する際は、政治的な意図を排除してあくまでビジネス目的であることを徹底する一方、米国は保護主義的な投資障壁を設けず、規制は安全保障上の問題がある場合に限るという内容だ。ファンドと米国が投資促進に向けて取り組む9原則を明記しており、ファンド側は投資内容などの情報開示を拡大するほか、リスク管理を強化する。民間との公平な競争や投資国の規則を順守することなども盛り込んだ。一方、投資を受け入れる米側は、ファンドをほかの投資家と差別せずに公平に扱うほか、投資規制は国の安全保障上、問題がある場合に限る。安全保障にかかわる技術や施設を取り扱う企業への出資や買収以外の投資は原則として認める方針を示した。シンガポールは主に外貨準備を財源にシンガポール政府投資公社、(推定資産規模33兆円)などを設立。アラブ首長国連邦アブダビは石油収入を資金源にアブダビ投資庁(同87兆5千億円)を運営。いずれも企業買収など大型投資を積極的に展開している。米国が政府系ファンドの投資指針でファンド設立国と相互協定を結んだのは初めてで、今回の内容は他のファンドにも適用する見通しだ。

Q.米国が今、こうした相互協定を結んだ背景は?

もともと米国は今秋、こうした投資指針を作る予定だったが、サブプライム問題による金融不安の高まりに危機感が強まっているため、当初予定から前倒しして指針を作ることにした。同問題による損失拡大を受けて、米金融機関の間では、新興国の政府系ファンドの資金を活用した資本増強が相次いでいる。昨年11月には銀行大手のシティグループアブダビ投資庁から75億ドルの出資を受けると発表。スイスのUBS、アメリカ証券大手モルガン・スタンレーメリルリンチも政府系ファンドの出資をそれぞれ受け入れた。米国の金融安定にいまや政府系ファンドの資金は不可欠だが、米議会には外交・安全保障面から新興国ファンドによる米企業への出資を懸念する向きもあり、投資ファンドや一般投資家にも不安がある。相互協定にはこうした不安を取り除き、投資マネーを呼び込む環境を整える狙いがある。

Q.米国はそれほど切羽詰った状態にあるのか。

米国はいまや政府系ファンドの資本力抜きでは金融安定化がおぼつかない状態といえる。大手金融機関がファンドから資本の受け入れを相次いで決めていることは、米国が競争力を誇ってきた金融部門が、国内だけでは資本をまかなえないところにまで追い詰められている構図を映し出す。ブッシュ政権公的資金の投入に慎重なだけに、なおさら政府系ファンドが頼みの綱となる。ただ、金融が国民生活に欠かせない重要なインフラであるだけに、外資に警戒感が広がって、「ファンドたたき」を引き起こす恐れはつきまとう。特に、急速な経済成長で外貨準備を膨らませる中国や石油収入を伸ばすロシアなどには厳しい視線が向きやすい。このため新協定にはファンドの政治利用防止や情報公開の拡充、民間との公平な競争などを盛り込み、米経済や金融システムとの共存をめざす姿勢を打ち出した。現実を直視し、情報公開などを促す指針を通じて議会などの警戒感を和らげるのが得策と判断したわけだ。今後は今回の協定締結をもとに、中国やロシアなどのファンドへの対応を議会などにどう示すかが焦点となりそうだ。

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