漢方米、カラフル野菜… 増える農業女子、吹き込む新風(朝日新聞)


朝日新聞 2010年11月2日
http://mytown.asahi.com/areanews/fukushima/TKY201011010359.html

農の世界に飛び込む若い女性が増えている。農家の嫁ではなく、女性ならではの発想やネットワークを生かして、農作物の生産から加工品の販売まで、ビジネスとして成立する農業を目指す動きも活発化。男性が担い手の中心だった旧来の農業のあり方に風穴を開けようと、農業女子たちが奮闘している。


天日干しされた稲が連なる田んぼに、赤やオレンジ、黄色などカラフルな作業着姿の女性たちがいた。山形県村山市の「山形ガールズ農場」のメンバーだ。


「女子から始める農業革命」を掲げ、昨年4月に誕生。今年2期生4人を迎え、社員は20代の女性7人になった。社長の高橋菜穂子さん(29)以外は県外出身者で、入社後、農作業を一から覚えた。


農家の三女の高橋さんは横浜国大を卒業後の6年前に就農。父親のもとで米や野菜作りを習った。「就職するなら農業」との決心は家族に反対されても揺らがなかったが、月給は5万円、周囲の農家に同世代がいないことも想像以上につらかったという。


東京で野菜レストランなどを展開する「国立(くにたち)ファーム」を経営する高橋がなりさん(51)の講演を聴いたことが転機になった。「女性の視点を武器に、自分らしいスタイルで食べていける農業ができるかもしれない」と国立ファームの生産組織として再出発した。


「乙女心をくすぐる農作物」を意識。主力商品は「安全で美容にも良い」と農薬代わりに漢方薬を使ったコシヒカリの「漢方ミスト米」。色とりどりの野菜を「カラフル野菜ボックス」としてネット販売したり、サクランボをハート形の箱に詰めたりして、女性消費者にアピールしている。


女性の就農を後押しする活動にも精力を注ぐ。その一つが女子大生に農業体験をしてもらう「女子大生プロジェクト」。これまで県内外の60人が田んぼで汗を流した。


■広がるネットワーク
独自のネットワーク作りも広がっている。


青森県弘前市のリンゴ農家坂本司子さん(30)は今年2月、「東北ガールズ・ファーマーズマーケット(TGF)」を結成した。


坂本さんは6年前に専業農家になった。ただ、「1人でやるには時間も知恵も足りない」と限界を感じたという。商品を改良しようとしても、相談相手がいなかった。周りの男性や年配者とは発想が違いすぎたからだ。また、加工品の販路もなかなか広がらなかった。各地の自治体が開く産地直売会には地元農家しか出店できない。


そんな考えから、以前から交流があった岩手県西和賀町の酪農家藤田春恵さん(30)とTGFを結成。藤田さんの地元、岩手県奥州市で2月に開かれた即売会には坂本さんも参加した。


インターネットを活用する動きも。秋田県八郎潟町の小玉美花子さん(22)は今年6月、農業に携わる若い女性たちのグループ「農ing娘。」をネット上で結成した。略称は「農娘(ノームス)」。自分の将来や恋愛、出産や育児など女性ならではの悩みも話せる場にしたいという。


当初は各都道府県に1人ずつ仲間ができればと47人を募集。「AKB48よりは1人少ないけれど、農業に対する思いは負けない!」とネットに書き込んだ。すると予想を上回る応募があり、各県に支部を置くことにした。


12月1日には仙台市で「農ing娘。第1回ミーツ」と銘打った集会を開く。(川原千夏子)


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〈東北の新規就農、増加傾向〉
東北6県の農業人口は高齢化・後継者不足などで減っているが、新規就農者は2006年以降増えている。東北農政局によると、女性の就農者も増えており、昨年は男女別の統計がない青森を除く5県で99人。66人だった06年の1.5倍だ。農村への女性進出に詳しい福島大学の岩崎由美子教授は「きめ細やかな女性の視点に対する期待が高まっている。就農する女性もそうしたことに魅力を感じているのではないか」とみる。